書き下ろしSS
魔力ゼロの最強賢者 ~魔法理論を極めたら、世界最強になっていた~ 1
ネイトン対策会議
「では、これよりネイトン対策会議を行う」
会議室に集められた面々を見て、魔法師団長がそう告げる。
ここに呼ばれたのは、魔法師団の中でも特に信用でき、魔法学にも精通したメンバーたちだ。
万一にでも本人に伝わることを避けるために、ネムとミアは呼ばれていない。
「……ネイトンは味方ですよね? 対策とはどういうことですか?」
「もちろん、ネイトンは我々の味方だ。だが……もし何らかの理由でネイトンが敵に回った時、俺達はどうなる? 彼1人と俺達全員が正面からぶつかった時、戦いの結果はどうなると思う?」
「下手をすれば……いえ、まともに考えれば全滅しますね。魔力切れすら狙えない」
「そういうことだ。たった1人の気まぐれで国が丸ごと滅ぶ状況など、到底許容できない。だから対策を開発しておけというのが、上からのお達しだ」
「彼が敵に回った時のことなんて、想像もしたくないですが……」
「もちろんそうだ。だが敵の気持ちになって考えておくことで、敵が取ってきそうな対策を予想することもできる。ネイトンが味方のままだとしても無駄にはならないから、まずは考えてみよう」
今までの情報だけで、自分たちの魔法がネイトンに効かないことは分かっている。
普通の魔法使いが相手なら、人数差があれば多少の実力差はなんとかなるのだが……相手がネイトンとなると、常識は通用しない。
魔法師団員全員で一斉に全力の魔法を撃ち込んだとしても、ネイトンを倒せるかどうかは自信がなかった。
もっとも、相手が寝ている時を狙うのでもなければ、魔法師団全員を一箇所に集めて魔法を使うことなど不可能なのだが。
「とりあえず、炎魔法がダメだってことは分かりましたが……もっと弾の速い雷魔法を使うのはどうですか? 発動とほぼ同時に着弾する魔法なら、反応できないのでは」
「ネイトンには、構築途中の魔力が見えている。発動から着弾までが早い魔法も意味はない」
「……それはつまり、ネイトンは全ての魔法を先読みしてくるってことですか?」
「ああ。そう思ってくれ」
会議室が沈黙する。
なんとなく予想はしていたが、全ての魔法が読まれる中で戦うことなど、彼らにはまったくの未経験だった。
敵を中心に半径1キロを焼き払い、避けるスペースすら消滅させるような戦い方は魔法師団の得意分野だが……ネイトンが相手では、それすら無意味だろう。
「ええと……そもそも、魔法を使わないというのは?」
「魔法を使わない?」
「はい。剣とか弓矢とかの、非魔法武器です。ネイトン相手に魔法を使うのが自殺行為なら、魔法を使わなければいいんです」
「それは、確かにそうかもしれないが……ネイトンは魔石を持ち歩いているぞ」
「魔石の魔力量は、大したことがないはずです。魔石の魔力切れを狙えば……」
「ネイトンの魔法は、信じられないほど効率的だ。そのへんにある魔法灯なんかも武器になるだろうし、魔道具を打っている雑貨屋にでもたどり着かれれば、魔石はいくらでも補充できる」
彼らは頭を抱える。
そもそもネイトンが敵に回ることなど考えにくいのだから、それでいいではないか。
ネイトンが敵に回った時のことを考えるより、彼と敵対しない事を考えるほうがずっと現実的なはずだ。
そんなことを考える団員が多数の中、1人の団員が手を上げた。
「散発的な攻撃で、睡眠を奪うというのはどうでしょうか?」
「その手があったか」
ネイトンの最大の弱点。
それは、ネイトンが1人しかいないということだ。
人間である以上は寝る必要があるし、不定期な攻撃で10日も徹夜させれば、いずれ力尽きることは想像がつく。
直接戦っても勝てないなら、睡魔に代わりに戦ってもらえばいいというわけだ。
「でも、ネイトンなら寝ないで済む魔法とかを持ってそうじゃないか?」
「いえ……それは流石に無理なのでは……彼も一応は人間ですよ?」
「寝不足で出る症状を直せる医療魔法をネイトンが持っていないと……その場で作り出すこともできないと、どうして言い切れる?」
団長の言葉を、彼は否定できなかった。
そして、この会議自体が無駄である可能性を、彼は考え始める。
どんな対策を考えたところで、『はい、その対策を無効化する術式を用意しましたよ』と言われてしまう気しかしないのだ。
もしネイトンを完璧に対策できる魔法を開発できる人間がいるとすれば、それはネイトン本人くらいだろう。
「……絶対にネイトンを敵に回さないで済むように気をつけるよう、上には伝えておくよ」
どうやら団長も、同じ結論に至ったようだ。
ネイトンだけは、敵に回したくない。







