書き下ろしSS
滅亡国家のやり直し 今日から始める軍師生活 Ⅴ
皇帝と義娘
ロア一行が帝都を出立してしばらくのち、帝国皇帝ドラク=デラッサの元へ一つの知らせが届けられた。
「ほお、蹴散らしたか」
ロア達の命を狙った襲撃者の存在は、帝都出発前には掴んでいた。その上でドラクが下した判断は静観。
帝国に同盟を持ちかける以上、強き存在であるべきだ。まして、『リフレアの戦いに手出しは無用』と啖呵を切った直後。襲撃者ごときに襲われて慌てるようでは話にならん。
結果はまあ、予想した通り。ロア達を襲おうとした賊徒は全滅。何事もなかったかのように帰路に着いたとの報告である。
「それで、どういたしますか?」
報告に来た部下が問う。今回の襲撃を裏で糸引いたのは、帝国臣下のファスティス。あろうことかドラクに無断で戦争犯罪者を監獄から連れ出し、刺客として利用したのだ。
ファスティスの暴走の理由はわかっている。ファスティスはかなりリフレアに肩入れしていた。そのリフレアとの関係が崩壊。焦ったあの男はルデクの使者を殺すことで、同盟を白紙にしようと目論んだ。
愚かなことを。
既にファスティスも、その派閥の者どもも捕らえてある。あとはドラクの一言で、彼らの運命は決まる。
「ファスティスは死罪だ。罪状を詳らかにし、一族はパッソ監獄に入れろ。ちょうど部屋の空きは出たばかりだからな」
「は。……派閥の者達は?」
「念の為関与を調べ、今回の件に関係していれば同様の罪を与える。そうでなければ……そうだな、ツェツェドラに忠誠を誓わせろ。あれの領土に転封し、うまく使えと」
ツェツェドラにも、派閥の懐柔を覚えさせる良い機会だ。
「かしこまりました」
退出しようとする部下に、ドラクは「待て」と声をかける。
「他に何か?」
「ツェツェドラに。いや、ルルリアに使いを出せ。帰ってすぐで悪いが、港の計画をまとめて、もう一度帝都に来い、と」
「承りました。ではそのように手配を」
その翌日。帝都ではファスティスが反乱罪によって処刑されたと公示された。
数日後。ルルリアが帝都に舞い戻る。
「随分と早かったな」
「お義父様がわざわざ早馬を出す御用。最短で書類をまとめてやって参りました。で、なんのお話でしょう?」
「新港の件と伝えたはずだが?」
「もちろんそれもあるでしょう。ですが、それだけでこんなすぐに呼び出されはしないはず。何かございましたか?」
……本当にこの義娘は察しがいい。こいつもまた、異才の一人ではある。が、今回はそれはいい。ルルリアが指摘した通り、ドラクには聞きたいことがあった。
正直あまり大っぴらにしたくなかったので、こうして別途呼びつけたのである。
「ロア=シュタインについて聞かせろ」
「やっぱり、そのお話でしたか」
「予想していたのか?」
「タイミング的には他に思いつきませんでした。おそらくですが、ロアのことを調べてから、話を聞きたかったのではないかと」
「まあ、そんなところだ」
ルルリアが戻ってくる間に、ロアが帝都に滞在していた間の情報を集めた。それらを踏まえて、帝国でロアをもっとも知るであろうルルリアに話を聞きたいと考えていたのだ。
「単刀直入に聞く、“あれ”は一体なんだ?」
独特な視点、知恵、胆力のいずれも頭抜けている。それでいて英雄特有の圧倒するようなな気質がない。代わりに、得体の知れない雰囲気を纏っている。ドラクにとっても、初めて見るタイプだ。だからあえて、ロアを“あれ”と呼んだ。
問われたルルリアはわずかに目を細める。
「お義父様を持ってして、ロアはそのように評価されるのですね」
「……随分と楽しそうじゃねえか」
「ええ。大陸の英雄、ドラク=デラッサ陛下に友人が評価されたのです。嬉しく存じます」
「軽口よりも、ロアのことだ」
もう一度問うたドラクに対して、ルルリアは表情を改め、まっすぐに見据えてきた。
「ロアは……そうですね、言うなれば、時代が求めた傑物だと思います」
「時代が求めた? 随分と抽象的だな」
「私が帝国皇帝について誰かに聞かれたら、同じように表現いたします」
「つまり俺と、同等と見るか?」
「いいえ、お二方とも全く別の……或いは真逆の立ち位置におられる存在かも知れませんね」
「……お前、俺が知らねえ何かを知っているな?」
「いいえ」
「本当か?」
ルルリアは微笑んだまま答えない。全く、こいつも底知れん。
「お義父様、ロアについて知りたければ、一番良い方法がございます」
「なんだ?」
「一緒にポージュを食べておしゃべりしましょう」
屈託のない笑顔。
「はっ、確かに一緒に飯を食うのは、人となりを知るのに一番手っ取り早ええな」
「ええ」
「……これだけは教えろ。ロアが敵になる可能性はあるか?」
「このままならば、なんの心配もいらないと思います。ロアが目指しているのは平和ですから」
確信めいた言葉。やはり何か知っているか。
だが。
――分からねえものを考えたってしょうがねえか――
ドラクは気持ちを切り替える。
この切り替えの良さもまた、ドラクを英雄たらしめる特性であった。







