書き下ろしSS

費が悪い聖女ですが、公爵様に拾われて幸せです!(ごはん的に♪)3

イチゴタルトは薬になるのか

 あ~ん! とイチゴたっぷりのタルトを頬張って、わたしはハッとひらめいた。
 ……美味しいものを使ったら、美味しいお薬ができるんじゃない?
 ちょっと前に、わたしはゴジベリーを使ってお薬を作った。ゴジベリーに疲労回復効果があるって聞いたからね。
 もともと聖女の薬には、聖女の力が付与しやすい薬草が使われることが多い。
 これらの薬草は薬師がお薬を作るのにも使われているもので、「お薬」だからそれを使うのが当たり前だと思っていたんだけど、考えてみたら薬師の作るお薬と聖女の作るお薬はまったくの別物だ。
 薬師は薬草の成分を抽出してお薬を作るけれど、聖女や薬草成分を抽出するというよりは、薬草成分を媒介として聖女の力を付与して作る。
 ……ってことは、別に薬草でなくてもいいかも!
 だってゴジベリーで作れたし! まあゴジベリーはお薬にも使われるから、薬草に近いようなものではあるのだけど、でもあれ、果物の一種だし。
 わたしは目の前のイチゴのタルトをじーっと見つめる。あんまり見つめすぎて、タルトが足りないと思ったらしいリヒャルト様が読んでいた新聞から顔を上げてゲルルフさんを呼んで、タルトをワンホール追加した。
 わーい! タルトが増えた~! ってそうじゃない! もちろんタルトは食べますけどね、違うんですっ! わたしだって食べること以外のこともたまには考えるんですよリヒャルト様っ!
 ちなみにこのタルトは朝食の後のデザートである。リヒャルト様は食後にデザートは食べないから、紅茶を飲みながら新聞タイムなんだけど……。
「リヒャルト様リヒャルト様」
「どうした、もうワンホールいるか?」
 もらえるのならもちろんもらいますけど、そうじゃないんですよ!
 わたしは「はい!」と反射的に返事をして、さらにワンホール、イチゴタルトをゲットした後で、言う。
「お薬を作りたいです!」
「薬ならこの前たくさん作っていなかったか? あまり無茶をしない方がいいぞ」
「お薬作っても疲れないから大丈夫です。作ってもいいですか?」
「聖女のストライキの影響で薬が足りないからな、作ってもらえると助かるには助かるが……」
 どうやらリヒャルト様はわたしがゴジベリーの薬を作ると思っているみたい。これは実験を理由に騎士団とかにも回しているから、あると助かるってリヒャルト様言っていたもんね。でも、わたしが作りたいのはまったくの別物なんだけど……詳細を言ったらなんかだめって言われそうな気配がするから内緒にしよう。できた後で報告すればいいよね。
「じゃあ、タルトを食べた後で作りますね。だからこの追加分のタルトをワンホール、お部屋に運んでいいですか?」
「食べながら作りたいのか? もちろん構わないが、まだ在庫はあるだろう。ゲルルフ?」
「タルトならまだございますよ。スカーレット様が最近お気に召しているタルトなので、今朝、五ホール購入しておきました」
 五ホール‼ ってことは……ここに二ホールと、あと一ピースあるから、ええっと、ええっと……あと、二ホールと五ピースある‼
 指を折って計算していると、リヒャルト様がぷっと噴き出す。むむむ、リヒャルト様はこの程度の計算は暗算でしょうけど、わたしは計算が苦手だから指がいるんですよ!
 ベティーナさんからは、そのうち計算機の使い方を覚えましょうねって言われたけど、あの、玉がいっぱい連なっているやつですよね、計算機。使いこなせる自信がないからいらないです。
 わたし、難しい計算をするとお腹が鳴るから、できれば簡単な計算しかしたくないのですよ。まあ、難しい計算をしろと言われても無理なんだけど。
 ゲルルフさんが残りの二ホールと五ピースのタルトをあとで部屋に運んでくれるって言ったから、わたしは目の前にあるタルトは心置きなくいただくことにした。
 ん~! イチゴが甘くてみずみずしくて最高っ! タルトはサクッと、カスタードクリームはふんわり濃厚で、バニラの香りはするんだけどイチゴの香りを邪魔していなくって、ほんっとーに美味しい! 百二十点っ!
 わたしがぺろりとタルトを平らげていくと、リヒャルト様がしみじみと「毎回見てもどこに消えているのか不思議になるな」なんて言うけど、わたしが食べたんだからわたしのお腹に消えているんですよ? 当たり前じゃないですか。変なリヒャルト様。
 ちょっとぽっこりしたお腹を撫でつつ満足したわたしは、リヒャルト様がお仕事に行くというから見送って、さっそくお薬作りに取りかかることにした。
 盥に水を用意してもらって……いざっ!
 どぼん!
「スカーレット様⁉」
 わたしのお薬作りを何度も見たことがあるベティーナさんが、突然悲鳴を上げた。
 どうしたんだろうと思うと、ベティーナさんは青ざめた顔で盥の中にぷかぷかと浮かんでいるイチゴタルトを見る。
「な、ななな、何をなさっているんですか?」
「お薬を作ります」
「……熱はないわね」
 ベティーナさんはわたしの額に手を当てて首を傾げた。わたし、難しいことを考えるとたまに熱を出しますけど、普段はとっても元気いっぱいですよ?
 わたしは首を傾げているベティーナさんに構わず、盥の中に手を……。
「スカーレット様、何故盥にイチゴタルトを溶かし込もうとしているんですか? タルトですから、いくら混ぜても溶けませんよ。もしかして、イチゴのジュースが飲みたいんですか?」
「違いますよ? お薬を作るんです」
 ベティーナさんは「?」がたくさん浮かんでいるような不可解そうな顔になる。
 わたしは気にせずに、いつもの通り……。
「えいやああ!」
「誰か! リヒャルト様を、リヒャルト様を呼んでください! スカーレット様がご乱心です!」
 わたしより、ベティーナさんの方がご乱心なんじゃ……。
 いつものベティーナさんらしくない慌てようにわたしがびっくりしていると、ゲルルフさんが部屋に駆け込んできて、盥の中を見て凍りついた。
「……スカーレット様、それは?」
「お薬です。きっと美味しいと思います」
「……ベティーナ。今すぐリヒャルト様に使いを出すので、その盥と残ったタルトを全部回収しておいてください」
「わかりました」
 ああっ! 残ったタルトは食べようと思っていたのにっ!
 わたしは目の前から回収されていくタルトにしょんぼりしたけれど、いつも優しいベティーナさんもゲルルフさんも今日は無常だった。
 しょぼーんとしながら待っていると、さっきお仕事に出かけたばかりのリヒャルト様が血相を変えて戻ってくる。そして――
「スカーレット! 今度は何をやらかした⁉」
 その言い方だと、わたしが毎回何か問題を起こしているように聞こえるんですけど。
 問題児を見るような目を向けられたけど、お薬を作って問題児扱いされるのは納得いかないですよ。わたし、お薬作り得意なんです!
「お薬ですよリヒャルト様。ゴジベリーのお薬は美味しかったので、イチゴタルトのお薬を作りました。これもきっと美味しいはずです」
 するとリヒャルト様は両手で顔を覆って天井を仰ぎ――
「スカーレット。新しい材料を薬を作るのは、当面禁止とする」
 そんなああああああ‼
 わたしの画期的な(はずの)イチゴタルトのお薬は、こうして日の目を見ることなく、効果や味すら確かめてもらえずに、なかったことにされました。ぐすんっ。

TOPへ