書き下ろしSS
おばあちゃんと孫と魔女の店 ~祖母から相続したお店がとんでもなかった件について~
お酒とお菓子で等価交換?
今日、用意したのは白ワインだ。
それに合わせる料理はシュニッツェル。サイドメニューは蒸したじゃがいもと、スライスしたラディッシュを和えたもの。
あとはトロトロに煮込んだ玉ねぎのスープとパン。
「今日もおいしそうね!」
「冷めないうちにどうぞ!」
結珠に促され、ジュジュはカトラリーを手にする。
「お好みでソースをかけてね!」
「これは……あまり見たことがないんだけれど、何?」
「え? シュニッツェルっていう、牛肉のカツレツみたいなもの?」
「カツレツ……? 何それ」
ジュジュには馴染みがないらしい。衣をつけて油で揚げたと説明したが、どうやらピンときていないらしい。
聞けば、ワーカード王国には揚げ物がないとのこと。そういえば、調理法は焼くか煮るかのどちらかだと聞いた気がする。
「まぁ、おいしいから騙されたと思って食べてみてよ」
「ユズがそう言うならば……」
ジュジュはおっかなびっくりといった感じで、シュニッツェルを切り分けて口に運ぶ。
初めて味わうサクサクとした衣の触感に目を見開いた。
「あら、本当! おいしいわ」
「口に合った? 味が薄かったらこれをかけて食べるとおいしいよ」
マッシュルームをたっぷり入れたクリームソースを作ってある。もちろん肉には塩を胡椒で下味をつけてあるが、味変にはちょうどいいはずだ。
ジュジュにソースをすすめると、素直にかけて食べ始めた。ぱぁ! とわかりやすく顔が輝いた。
「ソースをかけるとさらに旨味が増すわ! 私はこっちの方が好みかも」
「たくさん食べてね!」
二人でやいのやいの言いながら食事をする。
しばらくしてふとジュジュが礼とお詫びを告げた。
「この前は無理を言ってごめんなさいね」
「え? ああ、もしかして焼き菓子のこと? 師団長さん、甘いもの好きなんだ?」
先日、ジュジュが魔術師団の食堂で結珠から貰った菓子を食べていたところをディーターに目撃され、出所を問われたらしい。
結珠の世界の菓子だと答えたら興味を示され、強請られたとのこと。
ジュジュは結珠が気に入っている酒と引き換えに了承し、結珠にどうにか用意してほしいと頼んできた。
会うわけでもないし、酒と引き換えならばと、ジュジュにあげたフィナンシェと他の数種類の菓子を用意してジュジュに託したのだ。
今日はそのお礼の酒を運んでくれたついでの食事会である。
そんなに甘いものが好きなのか。顔に似合わないところもあるのだなと思ったが、少々違うらしい。
「甘いもの……というか、冷めてもおいしいもの……かしら?」
「冷めてもおいしいもの? どういうこと?」
意味がわからず聞き返す。ジュジュはワーカード王国の貴族の食事事情について説明をしてくれた。
「なるほど。めんどくさいね」
「そうね。師団長ほどの立場になると、色々と心配しなくてはならないことも多くて」
食事において、温かいものは温かいうちにという環境に育った結珠にはちょっとわからない事情だ。
「だから、ここでこうして温かくておいしい食事を取れるの、すごく嬉しいの。ありがとう」
「どういたしまして。でもそういう事情なら、ここでも毒とかの心配しなくていいの?」
「あら、そんなことしないでしょう?」
ジュジュは非常に結珠を信頼してくれているらしい。
「そう思ってくれるなら、嬉しいな。まぁでも毒の心配がないわけでもないのよね」
「え? どういう意味?」
「いやぁ……前に私の国の人間は食い意地が張っているって言ったじゃない?」
「ええ。聞いたわ」
「で、毒があってもおいしい食材ってのが結構あるのよ。どうにか毒を取り除いて安全に食事が出来ないかと考えた結果」
「結果?」
どうなったのだろうか。ジュジュは結珠の言葉を待つ。
結珠はワインをひとくち飲んだあと、にっこりと笑った。
「毒の除去に成功して、高級食材として食べられるようになりました」
「ええ!? それは……すごいわね」
「でしょう? だから別に毒がないわけじゃないの。それに残念なことに間違って毒のある食材を食べて亡くなる人も結構いるしねぇ……」
「それは……」
どこの国もそういうことはあるらしい。
だが、毒があっても食べたいとは一体どういう食材なのか。ジュジュも気になるところである。
「その毒がある食材、興味あるわ」
「ええ!? まぁ、その毒のある食材を調理するには資格が必要だから、安全だけど。じゃあ今度食べてみる?」
「いいの?」
「もちろん! あ、でも寒い季節の方がおいしいから、その頃になったらにしよう」
「楽しみにしているわね!」
結珠とジュジュは笑った。
食事はいつの間にかに終わっていて、結珠は食器を片付けてお茶を淹れて戻ってきた。お茶には焼き菓子が添えられている。
ふと話は、先ほどの続きに戻る。
「まぁでもそういう事情なら、師団長さんにはもう少し焼き菓子用意しようか?」
「え? いいの?」
「うーん。だって、またお酒たくさんもらっちゃったし」
二~三本と言ったにもかかわらず、ディーターはそれよりも多い数をジュジュに渡してきた。さすがに自分ひとりで持っては来られず、辻馬車を利用してここまで運んできたのだ。
結構な量なので、ふたりで飲むにしても長く楽しめそうだ。
「何かお菓子の対価としては絶対見合ってない気がするんだよね。こっちの方がお金かかってそう」
「そうなの? 砂糖もたくさん使っているでしょう? 高価なものだと思ったけれど」
ワーカード王国では砂糖や乳製品を存分に使った菓子は貴族が食べる高級品らしい。もちろん日本でも高いものはいくらでも存在している。
けれど、安価なものがあるのも事実だ。ちなみに今回は日持ちしそうなものを中心にそこそこの金額のもの渡した。
それに対して、酒はディーターが用意したものだ。いくら手を出しやすいものだと言っても貴族が用意するものだ。そんなに安いものではないだろう。
心配している結珠をよそに、ジュジュは大丈夫よと笑う。
「師団長が判断して渡してきたものだもの。平気よ。それにしてもこれだけあるのならば、ナールさんもいたら良かったのにね」
「そうだね。ナールさんも早く戻ってくるといいよね。そしたら、ここにあるお酒もあっという間になくなっちゃいそう」
「確かに。だったらまた師団長へ焼き菓子の贈り物をして、対価として新しいお酒を貰えばいいんだわ」
ジュジュも本人がいないところでは結構な物言いだ。結珠は苦笑しつつ、ふと置いてあった酒瓶を手に取り、ラベルを見る。
「これ、私が前においしいって言ったやつだよね? こっちは新しいのだし。次にジュジュさんが来るときまでに、日持ちしそうなお菓子をもう少し用意しておくね」
「無理していない?」
結珠は義理堅いようだ。酒のお礼にと焼き菓子を用意してくれるのは嬉しいが、ディーターが相手だ。無理をしていないか心配になる。
しかし結珠は大丈夫と手を振った。
「会うわけじゃないし、お菓子用意するくらいなら平気だよ。それにこのお酒でまたジュジュさんと食事会しようね」
「ありがとう、ユズ!大好きよ!」
「あはは! ありがとう! 私もジュジュさんが大好き!」
酔っぱらっているのもあるせいか、二人は笑って抱きしめ合った。
お礼に用意された焼き菓子。
甘いものやらしょっぱいものやらバラエティーに富んだラインナップに、非常に喜んだディーターがまたもや酒を準備しようとしてジュジュが止める日は近い。







