書き下ろしSS
悪役令嬢の矜持 7 ~貴女を蝕む冤罪に、わたくしからの贖罪を。~
幸せな学生生活
―――本当に、夢のようだわ。
イオーラは、今日、朝目覚めてからのことを思い返していた。
部屋の姿鏡に映っている自分は、学生服を身につけている。
数年間暮らしていた離れの部屋ではなく、幼い頃に暮らしていた、エルネスト伯爵家本棟の自分の部屋の中で。
すると、コンコン、と部屋のドアがノックされた。
「はい」
「おはよう、お義姉様! 一緒に行きましょ!」
ガチャッと入ってきたのは、貴族学校の制服に着替えたウェルミィだった。
わざわざ、部屋まで誘いに来たのだ。
満面の笑みが、とても可愛くて。
「こんな難しい課題、無理よぉ〜〜〜っ! 助けて、お義姉様〜!」
家庭科の授業後、刺繍が壊滅的に苦手なウェルミィが、半泣きで縋り付いてきた。
そんな泣き顔も助けてあげたくなる程可愛いけれど、『課題は自分でやらないとダメよ』と心を鬼にした。
「全く、毎度毎度懲りないわね!」
昼休みになって、イオーラのところに来たレオとアーバインを追い払い、ウェルミィは鼻を鳴らした。
流石にちょっと扱いが可哀想に思ったけれど『私のお義姉様よ!』と横に座った妹に、強く言うことは出来なかった。
―――こんな学生生活が、あれば良かったわ。
イオーラは、レオが『サロン』を作ってくれた貴族学校での生活が嫌なわけではなかった。
けれど、そう。
その楽しさの中に、ウェルミィはいなかったから。
妹と一緒に過ごせればもっと楽しかっただろう、と、そう思うには十分なくらい、屈託のないウェルミィは愛おしくて。
「えへへ、お義姉様♪ 一緒に帰りましょう♪」
そう言って迎えに来た妹に、イオーラは微笑みを返した。
「ごめんなさい、少し教授に用があるの。先に馬車に向かっていてくれる?」
「え〜! ……分かったわ。でも、すぐに来てね!」
「ええ」
少し不貞腐れてから、すぐに手をブンブンと振って去っていくウェルミィに、イオーラは小さく手を振り返す。
天真爛漫で、本当に可愛い。
そして妹の姿が消えると、イオーラは軽く息を吐いた。
「……でも、夢は夢なのよ」
こんな現実は、なかった。
イオーラの幸福を、ただ思い描いただけの理想郷。
「夢からは、覚めないといけないの」
眠り続けては、皆を心配させてしまうから。
それに、エルネスト義姉妹の仲が良い学生生活がたとえ幻でも……イオーラ・ライオネルとウェルミィ・オルミラージュの『今』は、幸福に包まれているのだから、それで良いのだ。
―――次にウェルミィに会った時は、なんて言おうかしら。
『おはよう』と、声を掛けたい。
今の自分達は、屈託なくそれが出来るのだから。
やがてふわりと、自分の意識が夢を離れて浮き上がるのを感じながら、イオーラはゆっくりと目を閉じた。







