書き下ろしSS
錬金術師カレンはもう妥協しません 2
とある騎士の恩返し――とある騎士視点
「騎士の皆様、おはようございます!」
「おはようございます、カレン嬢」
「これ、差し入れです」
エーレルト伯爵邸内の騎士団宿舎の訓練場内。
彼女はエーレルト伯爵家の賓客である錬金術師のカレン。現在屋敷内に滞在中だ。
そんな彼女からの差し入れは、一見何の変哲もない瓶入りの蜂蜜漬けのレモン。
瓶のラベルには『疲労回復』と書かれている。
これがポーションなのだというから驚きである。
「よかったら騎士団の皆様で食べてください。えっと、このことはユリウス様には内緒にしていただけると……」
「うむ。秘密にしておく」
カレンはほっとした笑みを浮かべると、キョロキョロと訓練場内を見回した後に立ち去った。
遠目に見ていた若い青年騎士はカレンの姿に胸が痛んだ。
「ユリウス様に会いたかったんだろうにな。いらっしゃらない時に来るとは間の悪い」
「いつもユリウス様がいない時に来るよな? もしや、ユリウス様が避けていらっしゃるんだろうか」
「籠絡するという話ではなかったか?」
「家のための籠絡だからな。必要以上には会いたくないと避けておられるとか」
「それはあんまりだろう。カレン嬢が気の毒だ」
カレンはエーレルト伯爵家の大恩人。騎士にとっても恩人だった。
何しろ、騎士だけでは避けようがなかった当主一家の毒殺を未遂に防いでくれたのもカレンである。
もしもこれを防げていなければ、自分たちの部隊の生涯の恥となっていただろう。
「ユリウス様に会うために何度も差し入れをする執着心の強い女性だと思われるのは気の毒だ。カレン嬢の望み通り、差し入れを受け取ったことは秘密にしておこう」
騎士たちはうなずき合った。
だが、若い騎士は思う。恩人であるカレンのために、見て見ぬふりをするだけでいいのだろうか。
そんなはずがあろうかと奮い立った騎士は、訓練を終える頃には主家の方針に口出しする覚悟を決めた。
「聞いたぞ、カレン! 君の陰謀もここまでだ……これまで騎士団のために無償で作っていたすべてのポーションの対価を払わせてもらうぞ!!」
「キャー! だから内緒にしてって言ったのに! お金が払われちゃう! ほんの気持ちなのに!!」
「ははは! 対価には私の気持ちも上乗せしてやろう! そこから更に延滞料金も加算だ!!」
「そんなつもりじゃなかったのにーっ!!」
高笑いするヘルフリートが頭を抱えるカレンを追い詰める。
若い騎士は小さくなって悟った。
自分のやった恩返しが裏目に出たのだと――しかし。
「教えてくれてありがとう、君」
肩を叩かれ見上げてみればそこにいたのはユリウスである。
「君のおかげでこれからはカレンに避けられずに済む」
ユリウスは艶やかに微笑むとヘルフリートとカレンのじゃれ合いに加わる。
参加してきたユリウスに慌てふためき悲鳴を上げるカレンはしかし幸せそうに見えたため、恩返しの裏目が更に裏目に出たようだと、騎士はほっと息を吐いた。







