書き下ろしSS

末異世界キャンプ 2

異世界はあなたの近くに

 ある平日のお昼休み。
「今日はここでいいかな」
 会社近くにある、全国チェーンのファストフード店。そこで優雅なランチを楽しもうと足を踏み入れる――が、そこで思わぬ事態に遭遇する。
「げっ……なんて人の数だ」
 店内にひしめき合う人、人、人……その半分以上が中高生くらいの少年少女だった。
 通りすがりの三人組の会話から、どうやら今日はテスト期間ということもあり、半日で学校が終わったらしい。
「やれやれ、まいったな……」
 店を変えようかとも思ったが、今日はもうハンバーガーとポテトとナゲットの気分なんだよなぁ。
 レジは行列だけど、最近は店員へ注文するスタイルではなく、タッチパネルで行われる。中には事前にモバイルオーダーをして来店してすぐに受け取れるようにしている人もいるのだ。 
「時代は変わるなぁ」
 学生たちに紛れて並ぶスーツ姿のアラサーがそんなことを呟く――と、その時、目の前に並ぶ四人組の男子たちが急に盛りあがり始めた。
「マジかよ! 人気なのは知っていたけどもうアニメ化するのか!」
「前の単行本の帯にシリーズ累計二百万部突破したって書いてあったし、当然だろ」
「なあ、もう声優って発表になったか?」
「まだアニメ化の告知だけだな」
 スマホに映る画像を見ながらテンションをあげていく少年たち。後ろにいる俺にもそれが見えたのだが……どうやら話題になっていたのは異世界転生ラノベのアニメ化についてのことらしい。
「異世界転生、か……」
 そういえば、俺も初めてあのトンネルから森へと出た時、真っ先に異世界だって疑ったな。
 最初はそんなのあるはずがないって疑っていたけど、オルティスさんと出会ってあの世界のことをいろいろと教えてもらってからは、あそこが俺の暮らしているこの現代日本とは違った世界であると理解したのだ。
 思えば、あれも異世界転生だよな……いや、実際には生まれ変わったわけじゃないから、異世界転移という方が正しいか。
「俺も一度でいいから、魔法を使ってみてぇな」
「いいよなぁ、魔法」
「俺は断然、炎魔法だな」
「ここは風魔法だろ」
 少年たちはそれぞれ魔法に思いを馳せているようだが、すぐに現実に叶うはずがないと笑い合っていた。
 ――悪いな、少年たち。
 その叶わないはずの魔法だが……実はちょっとだけ使えるんだよ。
 もっとも、今の俺にできるのは指先にライターよりも小さな火を出す程度。
 ハッキリ言って、実用性がないのだ。
 オルティスさんはこれからの修業次第でもっと凄い魔法が使えるって言っていたけど……俺としては、彼らが熱狂しているアニメの主人公みたいに、無双したりって願望はないんだよな。
 戦闘よりも大事なのはキャンプ。
 いかにあの世界の豊かな自然を楽しめるかが鍵となる。
 そんな時、俺はふと気になって、彼らが見ていたアニメの情報を自分のスマホで調べてみた。
 すると、驚くべき事実が発覚する。
 注目したのは――主人公とヒロイン以外の登場人物だ。
「何々……国を支える大賢者に獣人族。さらに凄腕の女性騎士に天才魔草使いか」
 いや、これまんまどっかで聞いた構成じゃないか。
 思わず心の中でそんなツッコミを入れてしまう。
 当然ながら、細部の設定は異なるし、何よりビジュアルがまったく違う。
 大賢者はオルティスさんよりもずっと若いし、獣人族は熊じゃなくて狼。女性騎士は金髪ではなくピンクのツインテールで、天才魔草使いはめちゃくちゃ根暗そうだった。
 何より違うのが、転生した主人公だ。前世はサラリーマンだったそうだが、もはやその頃の面影は微塵もないだろう、赤い髪をした快活そうな十代の美少年となっている。
「……まっ、そうだろうな」
 いろいろと俺とは正反対の主人公だな。
 実際、俺が異世界に転生をしたところで、主人公になれるような器じゃないしねぇ。
 どう頑張ってもモブが精一杯だろう。
 ――でも、それでいいんだ。
 俺は俺として、キャンプを通してあの世界を心ゆくまで楽しむ――気の合う仲間たちと一緒に。
 そうこうしているうちに、オーダーする番がやってきた。
「えぇっと……待てよ」
 液晶に映し出された数々のメニューを見ていると、脳裏に浮かんだのはみんなと一緒に食事をしている光景だった。
 オルティスさんたちのいる世界って……ハンバーガーに似た料理はあるのか?
 ポテトやナゲットもそうだし、このアップルパイとかも工夫をすればあっちで作れるんじゃないか?
 注文そっちのけで頭の中を支配していくキャンプ飯の数々。後ろに並んでいた中年サラリーマンの「うぅん」という咳払いでハッと我に返り、そそくさと注文を終えて列を離れた。
 しかし、予期せぬ場所でいいアイディアをもらえたな。
 レジで注文した商品を受け取ると、先ほどの少年たちがバーガーを食べながらまだアニメの話をしていた。
 その光景を微笑ましく眺めながら、空いている席がないか探し回る。
 なんだか、いつも以上に週末が楽しみになってきたな。
 今度、オルティスさんたちに異世界マンガとか紹介してみようかな。

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