書き下ろしSS
転生したらドラゴンの卵だった~最強以外目指さねぇ~ 17(完)
とある救世竜の物語
☆本編を読み終えてからご覧ください。
竜の左の首が悪神の喉元へ喰らいつき、その隙を突いて右の首が魔法を唱えました。それは如何なるものもをこの世界から追放する、聖なる魔法――リンボ。白い眩い光が悪神を閉じ込めていきました。
強大な力を持った悪神も、この魔法の前には敵わないはずだと考え、竜はずっと隙を窺っていたのです。
「ゲッゲッゲ、これは創世の時代に、聖神が扱っていた聖魔法の極致……! お前はこの我が、邪悪な者になるように導いたのだ! お前がそのようなものを扱えるはずがない!」
光に呑まれながら、悪神が叫びます。
「お前は俺の運命を操ったかもしれない。だが、俺の心までは縛れなかった。俺の魂だけはお前には穢されなかった。それを聖神が見てくださっていたのだ。それは生も死も許されぬ者を救済できる唯一の魔法。無の空間で罪を贖い続けるがいい、永遠にな」
「馬鹿な、馬鹿なぁ! この我が、自ら生み出した者の手で滅びるなど……!」
悪神は最後の叫び声を上げ、そうして光に溶けるように消えていきました。
かくして竜はついに、悪神を討ち滅ぼしたのです。
◆
世界を救い、再びドラゴンの卵へと生まれ変わった俺は、『白夢の雛竜』へと進化を果たした。そうしてかつて仲間や恩人達との再会の祝宴を開いた後、俺はアロやトレント、アトラナート、黒蜥蜴達と一緒にノアの森で暮らしている。
暮らしている……のだが、ある日、俺達がひとまずの住処にしている洞窟の奥地で、奇妙な絵本を見つけたのだ。
内容はどうやら人間だった記憶を継いで竜に生まれ変わった者が、邪悪な神によって導かれて世界を左右する戦いに巻き込まれていくも、最終的にはその悪神を倒して平和を勝ち取るという物語のようであった。
……そう、なんか、俺のこれまでをざっくりなぞりつつ、簡単に噛み砕いて薄っすら美化したような物語になっている。
……な、なぁ、アロ、トレント、ナニコレ?
こんなことするの、お前達二体くらいだよな?
俺は眉をピクつかせながら、アロとトレントへと尋ねた。
『無論、これは主殿の物語ですぞ! 主殿から聞いた話を、私とアロ殿が協力して物語として纏めたのです!』
木霊状態のトレントが、バシッと得意げに胸を張る。アロは照れた表情で、気恥ずかしげに頬を撫でていた。
「えへへ……ねえ、トレントさん。竜神さま、喜んでる?」
アロがトレントへ尋ねる。今の俺には〖念話〗がないため、細かい意思疎通にはトレントさんの通訳が必要になるのだ。
『ええ、バッチリですぞ!』
どっちかというと呆れてるんだが!? 美化盛り盛りでこっ恥ずかしいわ!
つーかよく作れたな……まともな本なんぞ。この世界の本は〖人化の術〗で人里に紛れ込んだときに多少は見た記憶があるがよ、あんま上質な紙じゃなかったはずだぜ。
『それは簡単ですぞ。〖楽園創造〗!』
トレントが指を鳴らす。
トレントの目前から、真っ白な木が伸び始めた。これは確か、HPを対価に自在に植物を操るスキルだ。
『これは紙の材料になる繊維を多量に含有するよう、私が制御しております。後は……〖ジェネシスマギア〗!』
トレントが魔法陣を浮かべる。風の球体を放って木を刻んだかと思えば、すぐに風の球体は高速回転する流水の球体へと変化していた。
〖ジェネシスマギア〗はこの世界の物質の大本である七元質を自在にコントロールできる魔法だそうだ。要するに、あらゆる属性魔法の頂点に君臨するスキルと考えて相違ないだろう。
魔法球の色が流動的にどんどんと変化していき、あっという間に中に取り込まれていた木だったものは、ぐずぐずの白い繊維の塊へと変化した。
『紙の素ですな。後はこれを型番に嵌め、薄く延ばして乾燥させます。そちらの作業も私のスキルでどうとでも、高精度かつ短時間で熟すことができます。私は今の種族に進化したときに、これらの魔法やスキルに加え、多くの叡智を授かっていますが故』
おい、なんだこのクソチートキャラは。反則過ぎんだろ。単体で無限に文明成長させられるじゃねえか。
六大賢者さんは文明の進化を恐れて人間と魔物が争い続ける世界を設計したらしいが、トレント一体で百世代分進んじまうぞ。いいのか、これ。
ってか、それはいいんだけどよ、実際この本の内容は何なの! こいつで何をするつもりなの!?
俺は本を手にし、表紙を指で示しつつトレントへと尋ねた。
トレントは途端に俯き、暗い表情を浮かべた。
『……実は世界の各地では、主殿が世界を滅ぼそうとして、それを止めるべく聖神が動いて奇跡が起きた……ということになっているのです』
おいおい、完全に真逆じゃねえかよ。結果的に無事だったけど、こっちは命懸けで世界を守ったんだぜ。ちょっと残念な仕打ちだな。そもそも聖神って、勇者と聖女にちょっかい掛けてたアイノスが、なんか都合良く演じてた一般人向けの名前みたいなもんじゃねえのか。世界をぶっ壊そうとしてたのはあちら様だぞ。
『聖神教は世界最大の宗教ですからな。アイノスとやらの暴走は、その意義を揺るがしかねない大事件でした。聖神教を守る都合のいい作り話が世に蔓延したのは、悔しいことですが、人々を束ね、世界を災禍の混沌からいち早く立ち直るために必要なことでもあったのです。人々の間で誰も真実などわからぬまま、主殿こそが諸悪の根源だったという俗説が広まっていきました』
……なるほどな。そう聞けばまあ、納得できるところもある。
別に俺だって、そうも見ず知らずの連中から感謝されたいってわけじゃねえ。俺がフォーレンとの相打ちを覚悟したときも、見知らぬ人達の平穏なんか二の次で、これまで会ってきた人達のことばっかり考えていたからな。
身近な奴らが本当のことを知ってくれていたら、俺はそれで充分……。
『だから私とアロ殿で主殿に有利な俗説をでっち上げ、絵本として各地に配って広めることにしたのですぞ!』
おおん!?
『そして聖神教徒にも忌避感を抱かせずに広げられるように、聖神とアイノスの奴を完全に切り分け、むしろ聖神を称える内容としておいたのです! 作戦が嵌って、既に世界各地でじわじわと広がりつつありますぞ!』
既に世界各地に広がってんのコレ!?!
俺はパラパラと絵本を捲る。これでもかと美化された、人化状態の俺の姿が目に付いた。これアロのセンスだろ絶対。
は、恥ずかしい……! 俺は顔が熱を持つのを感じ、両手で押さえた。
「竜神さま、そんなに喜んでくださるなんて……!」
アロが感涙の涙を瞳に滲ませる。
ま、まあ、嬉しくないことはねえんだけどさ……!







