書き下ろしSS

狼への転生、魔王の副官 15 巨竜咆哮

私が一番!

イオリとミーチャは今、絶対に退けない戦いを繰り広げていた。
「私はフリーデに救われました。実の両親から捨てられ、養父母からも見捨てられないかと恐れていた私に、安らぎと自信を与えてくれましたから」
イオリがどこか遠い目をしながらそう言うと、ミーチャもすかさず反論する。
「私だってフリーデに救われたわ! フリーデがいなければ、私は今頃謀反人たちの手で殺されていたもの!」
「その救われ方はまた……ずいぶんと直接的ですね……」
イオリは少し面食らった様子だったが、すぐに気を取り直す。
「私のフリーデなら、皇女殿下をお救いするぐらいは簡単だったでしょうね」
「ええ、私のフリーデだから」
互いに一歩も譲らず、見えない火花を散らす二人。
イオリにとってフリーデは初めて心を許せた同年代の友人だ。
一方、ミーチャにとっても同年代の異国の王族(と彼女は思っている)はフリーデ以外におらず、親友となった今では唯一無二の存在だった。
そして二人はフリーデの性格をよく理解しているため、全く同じことを考えていた。

『フリーデは誰にでも優しいから、私だけが特別ということはない』

それが思春期の少女たちを不安にさせる。自分にとって特別な存在は、自分のことも特別に思ってほしい。
しかしフリーデがそういう人物ではないこともよくわかっていたし、そういう公正で善良なところに惹かれてもいた。
だから二人はこの論戦に勝利できないことを知りつつ、それでも後には退けずにいた。
(長期戦になりそうですね)
(相手のことをよく観察しなくては)
二人は正面からの力押しはあきらめ、搦め手から攻めることにする。
「ミーチャ殿下はフリーデのこと、よくご存じなんですね」
「ええ、離れていても文通していたから。そういえばイオリのことも書いていたわ。新しい友達ができたって。でもあの子、誰の話題でもとにかく褒めるから……」
ミーチャはイオリに有利にならないよう慎重に言葉を選んだが、逆にイオリは妙に共感した様子でうなずいた。
「そうなんですよね。特別扱いはしてくれないんです」
「えっ!? あ、そ、そうよね。ほんと……」
ミーチャが頬杖をついて溜息をつく。
「ロルムンドの皇女なのに、あの子の前だと『大勢いる友達』の一人でしかないのよ。それが不安で」
「わかります」
イオリがググッと身を乗り出す。
「私はフリーデを慕って故郷を飛び出してきたのに、ヨシュアも同じ境遇だからフリーデにとっては『二人目』なんですよ」
「あー……それは厳しいわね……。私なんか故郷を捨てる勇気なんてないし、ますますその他大勢だわ」
ミーチャが落ち込むとイオリは首を大きく横に振った。
「そんなことはありませんよ。フリーデはここに来るまでミーチャ殿下の話ばかりしていたんですから。あのときは殿下こそがフリーデの特別な友人でした」
「そ、そう? ふふっ。あ、でもイオリだってフリーデの特別な友人でしょう?」
「そうでしょうか……?」
「ユヒテたちとは全く違う出会い方をして、最初は対立していたのに親友になったんだから。素敵な友情の物語だわ」
ミーチャが力強く言うと、イオリは照れくさそうに頬に手を当てる。
「そう言われると嬉しいですね。ありがとうございます、殿下」
「いえいえ」
二人はこの瞬間、互いの器を確信した。

『さすがはフリーデが見込んだ友人だけあって、とってもいい子!』

無言で見つめ合う少女たち。
やがて二人は苦笑した。
「やっぱりフリーデの人物眼に間違いはありませんでしたね」
「ええ。あなたとはフリーデ抜きでも友達になれそう」
二人はうなずき合う。
「あの子の親友になると大変ですね。次から次にライバルが増えますから」
「本当ね。たぶんこれからも増え続けるわ。覚悟しとかないと」

互いの心の奥底に固い絆が生まれたとき、渦中の人物がひょこりと顔を出す。
「あ、そこにいたんだ。そろそろお茶の時間だよね? 新作の砂糖菓子がいっぱいあるって陛下が仰ってたから楽しみ!」
「はいはい、すぐ行くわ」
ミーチャは苦笑し、イオリに手を差し伸べる。
「お互い苦労するわね。さ、行きましょう」
「ええ」
イオリは新しい親友の手を握ると、共に歩き始めた。

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