SQEXノベル一周年記念SS

イナススキル持ち四人が集まったら、なんかシナジー発揮して最強パーティーができた件

一周年

「ねえー。パーティー結成一周年記念、何するー?」
 いつもの酒場にて。
 唐突にテトが口にしたセリフに、俺たちは首をかしげた。
「なんですか? 一周年記念って」
「そもそもそんなに経ってないわよ。まだ一ヶ月くらいじゃない?」
「あれー、そうだっけ? じゃあ一ヶ月記念何する?」
 俺は言葉に迷いながら訊ねる。
「その……テトはやりたいのか? そういうの」
「ボクがやりたいっていうか……え、普通そういうことするんじゃないの? パーティーって」
「冒険者のパーティーで記念日を祝うのは、俺は聞いたことがないが……」
「わたしもですね」
「私も」
「えー、そうなの?」
 自分の思い込みだったと知り、テトが意外そうにする。
「ボクが前いたパーティーでは、メンバーがそんな話してたんだけどなー……なんだか浮かれた連中だったからかな?」
「結局そのパーティーでは、一周年記念にどんなお祝いをしたんですか?」
「わかんない。ボクその前に抜けたから」
「あ、そうですか……」
 とはいえ。
「それじゃあ……やるか、記念日。一ヶ月でも一周年でもいいが」
「あ、やるんだ」
「わたしも賛成です! いいですね、たまにはそういうのも!」
「何したらいいかしらね」
 みんな乗り気らしかった。少し経ってココルが言う。
「何かいい物食べたいですけど……せっかくですし、食材から全部ダンジョンで集めてみませんか?」
「おもしろそうだな。このパーティーなら、難易度の高いダンジョンにも食材を採りに行けそうだ」
「ダンジョン産の高級食材もあると聞くわね。調理は、調合スキル持ちに頼めばいいかしら」
「いいねー。ボクも食べてみたい」
 ココルがはしゃいだように言う。
「わたし、実は気になっていた食材があるんですよ。アルガスボアっていう小さな猪型モンスターの肉で、シチューにするととってもおいしいらしいんです!」
「聞いたことあるな」
 俺は言う。
「だが、滅多に会敵エンカウントしないレアモンスターじゃなかったか?」
「そうなんですよねぇ」
 ココルが少し語調を落とす。
「でもたしか、会敵エンカウント率を上げる方法があったはずなんですが……」
「私も聞いたことあるわね。たしか、『火精草の葉』ってアイテムを使うのよ」
 メリナが続ける。
「一枚消費するだけで、しばらくの間アルガスボアが寄ってくるらしいわ」
「へえー、なんで?」
「さあ。好物っていう設定なんじゃない?」
 理由はともかく、これで入手難易度の問題は解決した……かと思いきや。
「えっ、『火精草の葉』? それって普通は落ちないアイテムなんだけど」
 テトの言葉に、メリナが訊き返す。
「そうなの?」
「うん。スピールプラントっていう激弱モンスターが落とすんだけど、普通に倒すとHPがゼロになった瞬間に燃え上がって葉をドロップしないんだよ。料理にも使えるから、けっこう良い値段で売れるんだけど」
「何か、特別な倒し方が必要なのか?」
「麻痺か睡眠状態にしてから倒す必要があるね。そうすると燃えないんだ」
「じゃあ、テトさんの睡眠ナイフでいけそうですね」
「いや、ボクだとレベルが高すぎて、眠らせる前に倒しちゃうからダメだったんだよね。ダメージを与えないようにするなら、酒系のアイテムが一番簡単みたいだよ」
「えっ、お酒ですか?」
「うん。ストレージから出して置いておくと、戦闘中でも寄ってきて根っこで吸って、そのまま寝るらしいんだ。たぶん好物って設定なんだと思う」
「飲んだくれ親父みたいな草ですね」
 とはいえ、入手難易度の問題は解決して……いなかった。
「お酒のアイテム……? そんなのあったかしら?」
「一応、ないことはない」
 眉をひそめるメリナに、俺は説明する。
「オーガやゴブリンがまれに落とすんだ。あと宝箱にもたまに入っている。ただ、どちらも確率はかなり低いから……狙って拾おうとするなら、スピットファイア・ハーミットという固定シンボルモンスターを倒すのが一番早いな」
「あ、わたしもそのモンスター知ってますよ! 昔いたパーティーで倒したことあります」
 ココルが言う。
「風山仙境の三十五層にいる大きな仙人型モンスターで、壺からお酒を飲んで火炎ブレスを吐いてくるんですよ。しばらくするとお酒がなくなってブレスを吐かなくなるんですけど、そうなったらアイテムの『仙酒』をドロップしなくなっちゃうので、早く倒さないといけないんです」
「三十五層の固定シンボルとなると……私たちでもすぐに倒すのは難しそうね」
「それが実は、裏技があるんですよ」
 ココルが不敵に笑って言う。
「同じダンジョンにアルガスボアが出るんですけど、その肉をスピットファイア・ハーミットに向かって投げると、壺を置いてそっちを食べ始めるんです。つまり、お酒を飲ませないことができるんですよ。だからまず初めに、アルガスボアの肉を手に入れて……って、あれ?」
 その時、ココルが気づいたように呟いた。
「……一周、しちゃいましたね」
 一周年記念を祝うには、どうも一苦労ありそうだった。

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