書き下ろしSS

、能力は平均値でって言ったよね! 17

獣 人

「あれ、珍しいわね……」
 大通りを歩いていると、レーナが道の反対側を見て、そんなことを呟いた。
 マイルがレーナの視線の先を見ると……。
「あ……」
 そこには、数人の獣人の子供達の姿があった。
「珍しいわね。人間の街に住んでいる獣人は滅多にいないのに、種族が異なる獣人の子供達が一緒にいるなんて……」
 そう、あの宿屋の娘、ファリルちゃん……どうも、家族とは血が繋がっていないみたいであったが……以外には、マイル達は人間の街に住んでいる獣人はあまり見掛けたことがない。

 だっ!

「あ、コラ待て!!」
 ……遅かった。
 いや、たとえ遅くなかったとしても、そんな制止の声で止まるマイルではなかったであろうが……。
「行っちゃいましたね……」
「行っちゃったわね……」
「たはは……」
 そう。
 猫に鰹節、狐に油揚げ。
 マイルにそんなもの獣人の子供達を見せて、ただで済むわけがなかった。
 今回は、わざわざそれをマイルに教えた、レーナが悪い。
「レーナ……」
「悪かったわよ……」
 非難がましい目のポーリンに、素直に謝るレーナ。
 まあ、もしレーナが教えなかったとしても、あのマイルが獣人の子供達を見逃すとは思えなかったが。どうせ、数秒後には気付いていたに違いない。
 そして、マイルは……。
「ねえねえ、お嬢ちゃん達、飴玉いらない? 鰹節と油揚げとマタタビの小枝とミルクもあるよ!」
「「「「変質者だあぁ~~!!」」」」
 子供達の叫びを聞いて飛んできた、大人の獣人達に取り囲まれていたのであった。
「「「だよね~!」」」

 慌てて犯罪現場に駆け寄り、マイルの弁護をするメーヴィス達。
「あ、あの、悪気があったわけじゃないんです! この子は、ちょっと、いや、かなり……、いやいや、すごく獣人の子供が好きで、もふもふしたり、お菓子で餌付けしたり、部屋に連れ込んで一緒に遊んだりするのが趣味なだけで……」
「「「「犯罪者じゃねーか!」」」」
「あ……」
 メーヴィスの弁護は、正直過ぎたため失敗に終わった。
「いえ、この子……マイルは、人間でありながら、攫われた獣人の幼女を臭いだけで追跡したという実績が……」
 次は、ポーリンが擁護してくれたのであるが……。
「「「「変質者じゃねーか!!」」」」
「あ……、言われてみれば……」
 ポーリンによる擁護も、失敗した。
「いえ、マイルは……」
 そして『赤き誓い』の常識人、最後の砦であるレーナによる弁解。
「自分の欲望に忠実なだけで、おかしなことをしているという自覚が全くないだけなのよ!」
「「「「危険人物じゃねーか!!」」」」
「「「あ……」」」
 思わず、獣人側の言い分に納得してしまったレーナ達であった……。

「でも、獣人の方達が複数、それもお子さんを連れて人間の街に来られるなんて、珍しいですね。何か、大事な御用件でも?」
 マイルは、周囲の状況を気にもせず、何か困っているなら手伝ってあげようかと、厚意からそう尋ねた。獣人には好意的なので。
 ……決して、『将を射んと欲すればまず馬を射よ』という作戦で、まず獣人幼女の親から籠絡、とか考えていたわけではない。……と思う。
 しかし……。
「うるせーよ! どこで何をしようが、俺達の勝手だろうが! お前達には関係ねぇ!
 俺達じゅう獣じん人は、じ自ゆう由じん人なんだよ!」
「……そんな、イシャーどこかの武器店のスローガン、『じゅう銃を持つ権利は、じ自ゆう由を持つ権利』みたいに言われても……」
 獣人達の返事に、つい、そう言って突っ込んでしまったマイル。
 自分より先に上手いこと駄洒落を言われてしまい、ちょっと悔しかったのかもしれない。
「銃? 何よソレ?」
「イエ、何でもアリマセン……」
 そして、レーナの疑問は軽く流した、マイル。
「で、皆さんは……」
「「「「見つけたぞ、この野郎!!」」」」
 喋りかけたマイルの言葉を遮り、怒鳴りながら割り込んできた、4人の地廻りのゴロツキ共。
「事情が変わった!!」
 前世でお気に入りだった芸人のネタ台詞を口にしながら、期待に満ちたキラキラとした眼でゴロツキと獣人達を見詰めるマイル。
 そう、獣人達のピンチ危機、マイル自分が助ける、親:すまなかったな、助かったよ……。子供達:お姉ちゃん、すご~い! → もふもふ天国。
 くくく、と悪い笑みを浮かべるマイルと、呆れた顔で肩を竦めるレーナ達。
 そして……。
「せっかく攫ってきたガキ共を取り返されたばかりか、うちの組事務所、依頼者の商店、全部潰された上に、罪状を街中に公表しやがって……。
 これじゃあ、いくら警備隊に賄賂を掴ませていても、揉み消しようがないだろうが!
 お前達のせいで、どれだけの者が捕まると思ってんだよ、この人でなしがっ!
 お、お前ら人間じゃねえ!!」
「……ああ、獣人だけど?」
((((そりゃそうだ……))))
 獣人の返しに、納得する『赤き誓い』。
 そして、がっくりと肩を落とすマイル。
「すでに事後、解決済みでした……。
 それに、この獣人さん達は強そうだから、私の出番はなし。
 ああ! あああ! あああああああああ~~!!」
「うるさいわよ!」

 そして、後で少しだけでももふもふさせてもらえることを期待して、ゴロツキ退治を手伝うマイルであった……。

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