書き下ろしSS

能「村づくり」チートでお手軽スローライフ ~村ですが何か?~ 8

空飛ぶスーパー村長

☆本編を読み終えてからご覧ください。


 魔王を倒すため、村の精鋭部隊が魔大陸に向けて出発した。
 本体も影武者に意識を移す形でそれに同行したのだけれど、村に残った別の影武者である僕は(うーん、ややこしいなぁ)、本体からとある仕事を任されていた。
「えっ、機竜は修理中なの?」
「ん。壊れたから(ついでに強化中)」
「今なんか心の中で言わなかった?」
「気のせい」
『兵器職人』のギフトを持つドワーフの少女ドナの返答に、僕は困惑する。早速その仕事が暗礁に乗り上げてしまった。
 万一のときに備え、機竜を魔大陸に送り込みたいというのが本体の考えだったのだ。
 一応、ゴアテさんが大量の聖水を運んでくれているけれど、場合によってはあれだけでは足りないかもしれない。途中で瓶が割れちゃう心配もあるしね。
 機竜であれば、一度にもっと多くの聖水を運搬できるはずだった。
「……そっか。ロックドラゴンにやられて不時着しちゃったとは聞いてたけど、そんなに酷かったんだ」
「ん、そう(本当は修理だけならとっくに終わってるけど)」
 死の樹海で発生したスタンピード。その原因となった巨大なロックドラゴンに挑んだ機竜は、巨岩の砲弾を喰らってあえなく退避したのだ。
 どうやらそのときの修理がまだ終わっていないらしい。
「うーん、弱ったな。さすがに普通の巨人兵じゃ、川を渡るのは難しい気がするし」
 本体からは、途中に大きな川があって、そこを越えていかなければならないとの報告を受けている。巨人兵が徒歩で渡ろうとしたら、きっと流されてしまうだろう。
 どうしようかと思案していると、
「ん、いいアイデアがある」
「それは?」
「スーパー村長を使う」
「スーパー村長を? でも、あれは空を飛べないよね?」
「大丈夫。飛べるようにしておいた」
「何やってんの!?」
 ツッコミどころは満載だったけれど、今は一刻を争う状況だ。本体からの許可も貰って、聖水を可能な限りスーパー村長の操縦席に詰め込んでいく。
 小瓶なんかじゃなくて、100リットルくらいの容器を五つだ。
「ついでに聖水砲も付ける」
「そんな時間ないよ?」
「大丈夫。十分で終わる」
 そして本当にドナは僅か十分で聖水を撃ち出すための発射機を作成し、それをスーパー村長の背中に取り付けたのだった。
 さらに発射機からはホースが伸び、それを操縦席に置いた聖水入りの容器へと繋ぐ。
「運転は?」
「やる」
 ドナが自ら運転するつもりらしい。
 そうして僕たちは一緒に瞬間移動し、魔大陸の北端の海岸へと飛んだ。
「機竜と違って翼もないけど、どうやって空を飛ぶの?」
「大丈夫」
 ドナがいくつかのボタンを操作すると、ウイイイイイイイン、という駆動音が響き、気づけばスーパー村長に翼が生えていた。機竜のそれによく似た、近未来的でカッコいい翼だ。
 影武者である僕も乗せて、ドナと一緒に宙を舞った。
「ほ、本当に飛んだ……っ!」
 思わず感動してしまうけれど、魔王城を目指す影武者(本体の意識在中)は、すでに魔王城を発見し、近くにいるらしい。
 僕たちも急がなくっちゃね。
「いざ、魔王城へ!」
「ん、出発」

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