書き下ろしSS

、能力は平均値でって言ったよね! 20

珍しい魔物

「そろそろ、また特別販売をしてもいい頃ですよね?」
「……そうね。マイル、お願い」
「分かりました!」
 特別販売。
 それは、旧大陸における『対異次元世界侵略者・アルバーン帝国絶対防衛戦』において倒した魔物達のうち、現地で腐って土地が汚染されるのを防ぐためにマイルと『ワンダースリー』がアイテムボックスに取り込んだ大量の魔物達のうちの一部を、ギルドの素材買い取りに出して換金することを指す隠語である。
 討伐依頼の品として出すわけにはいかないので、あくまでも素材の納入として売るだけである。
 この辺りで狩ったことにしてもおかしくはないもの。
 高く売れるもの。
 そして、町の皆さんへのサービスとして、肉が美味しいものを納入する。
 そう決めている、『赤き誓い』と『ワンダースリー』であるが……。

「これ、お願いします!」
 受付窓口ではなく、大物用の納入場所で、アイテムボックスからドン、と獲物を出すマイル。
 マイルとマルセラのふたりだけは大容量の収納魔法持ちであることを公表しているので、今更驚くようなギルド職員はいない。
 ……収納魔法の存在については。
 しかし……。
「なっ! ヒッ、ヒッポグリフだとっ!」
「「「「「「えええええええ〜〜っっ!!」」」」」」
「あ、出す物、間違えた……」
「「「マイルううううぅ〜〜!!」」」

     *     *

 あれから、酷いことになった。
 どこで狩った、他にはいなかったか、つがい番の片割れはいなかったか、どうやって狩った、近隣の町や村に被害は、王宮の騎士団と宮廷魔術師に連絡せねば、その他諸々……。
 そして勿論、素材目当ての商人や、その素材を使って武器を、と考えるハンター、貴族に献上して取り入る切っ掛けにと考える者……。
「どこで狩った!」
「他にはないのか!」
「ギルドには納入せず、うちに直接売ってください!!」
「「「あ〜〜……」」」

 レーナ達は、マイルにヒッポグリフを再度収納魔法……ということにしている、アイテムボックス……の中に入れさせて、襟首を掴んで引っ張り、どこかへと去っていった……。

     *     *

「どうしてあんなものヒッポグリフを出すのよっ!」
「すっ、すみません、オークウォリアーと間違えました……」
 オークウォリアーは、普通のオークより歯応えがあり、美味しい。なので通常のオークより高く売れるのであるが、滅多に狩れないし、かなり強いので狩りには大きな危険が伴う。
 ……普通のCランクハンターだと……。
 そのオークウォリアーが、あの絶対防衛戦ではたくさん倒された。なので当然、マイルと『ワンダースリー』のアイテムボックスの中には、たくさん入っている。
 そして、異次元産のオークウォリアーは、この大陸にいる在来種より、更に肉が美味いのである。
 それをここでのオークウォリアーの相場価格で売るという、金儲けが目的ではあるが、一種のサービスのつもりであったのだ。
 ……なのに、マイルが間違ってヒッポグリフを出してしまったのである……。
 希少種であり、素材価値が非常に高く、……そして一頭で村を壊滅させ、町にも大被害を与えかねないという、危険な上位種を……。

「どうすんのよ! このままだと、ギルドに顔を出せないわよ!」
 レーナが言う通り、ハンターギルドだけでなく、商業ギルド、武器屋、防具屋、……いや、普通に町を歩いているだけでも、商人や職人、そして貴族家の者達がたか集ってくるに違いない。
「うむむむむ、どうすれば……、って、そうだ!」
「何か名案が浮かんだのかい?」
「はいっ!」
 マイルは、メーヴィスに向かってにっこりと微笑んだ。
「ヒッポグリフの件を誤魔化すには、もっとインパクトの大きいことで皆の関心をそ逸らせばいいんですよ!」
「具体的には、どうするのですか?」
 そう尋ねるポーリンに、マイルは自信たっぷりに答えた。
「私の収納に入っている、ヒッポグリフより上位の魔物であるグリフォンを出して納入すればいいんですよ!
 そうすれば、ヒッポグリフのことなんて、すぐに忘れられちゃいますよ!」

「……」
「「…………」」
「「「………………」」

「それじゃ、ヒッポグリフがグリフォンに変わるだけで、意味がないでしょうがああぁ〜〜っ!!
 ……いえ、それどころか、もっと悪化するわよっ!」
「あ……」
 マイル、冴えている時はすごく有能なのに、冴えていない時には、とことん駄目駄目なのであった……。

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