ベル4巻&コミックス3巻同時発売記念SS

臨時収入大作戦

 なんか、胸に花が咲いた。
 先代聖女派によりありとあらゆる殺害方法を試されてきた私も、流石にこれは初体験である。

 妙な空間から戻った後回収され、医務室送りになった私は、神官長達の計らいにより人の出入りが極端に少ない部屋に収納してもらえた。
 おかげで、私という聖女候補につけられた付き人エーレと、暗躍の打ち合わせし放題である。
 神官長達の気遣いを利用して得た、自らに都合のいい環境を享受する私が十三代目聖女だ。この当代聖女忘却事件が解決したとて、戻ってくる聖女はこの私。
 アデウス国民の絶望は察してあまりあるが、まあ頑張ってほしい。
 それはともかく、胸に花が咲いたのだ。なんか知らないが咲いたのだ。顔が焼けたり妙な空間に行く前から咲いてはいたのだが、深く考える時間があまりなくてよく考えなかったが、胸に花が咲くのはおかしいと思うのだ。
 頭に咲くよりは隠しようがあっていいとは思うのだが、聖女を土壌に花が咲くのはあまりよくないと思うのだ。
 襟元を引っ張り、花を見る。神殿を出てから少し薄くなった爪で力を籠めて引っ掻いても、傷一つつかない。エーレに頭を引っぱたかれた。
「身体への影響が判明していない現状、必要以上に触るなとカグマに言われているだろう」
「瘡蓋ってなんとなく触っちゃいません?」
「体内の損傷および大量の吐血の結果を、瘡蓋呼ばわりする馬鹿はお前くらいな上、負傷の度一度は傷口を開きカグマに寝台へ物理的に縛り付けられる阿呆もお前くらいだ」
 傷口とは勝手に開くものなので、その件については仕様がないと思うのだが、そういえば私以外の負傷者は傷口を開かせず完治させていたことを考えると、カグマの怒りはやはり私の罪のような気がする。
 その件は当代聖女忘却事件が解決してから改めて考えるとして、何で出来ているのだろう、これ。飲みこんだ種という神力の結晶ならまだいいのだが、私を土壌にしているなら、そこら辺の骨やら臓器やらから養分を取って咲いていたらどうしよう。
 若干困る。この身体はまだ動いてもらわねばならない。
 それにアデウス国民には悪いのだが私は曲がりなりにも当代聖女なので、その聖女を土壌にして咲く花なら、何か利用できるとお得だとも思う。しかし、抜いて次が生えるかどうかは分からず、次が生えたとしても量産できるようにも見えない。
 そもそも、私から切り離せるのだろうか。
「どうしましょう、これ。花見くらいしか使い所なくないですか?」
「使い所があると思っていた事実がどうしましょうだろう、それ」
「とりあえず世界に一つだけですし、希少価値があるとかで売れませんかね? 砕くか引き千切るかしたら外れるかもしれませんし」
「その前にお前の頭を叩き割る」
「確かに私の頭蓋骨も今のところ世界に一つしかありませんが、希少価値ありますかね?」
「アデウスの聖女は非売品だと、当人である聖女が知らない以上の希少性はない」
 希少価値云々かんぬんの前に、非売品だったらしい。
「それはアデウスの法ですか? 神殿は法の範疇外ではありますが、これ以上の余計な軋轢は避けたいところですし、仕様がないですね」
 資金にするのは諦めたほうがよさそうだ。
 残念だなと、襟元を引っ張ったまま胸元の花を見て溜息をつく。聖女原産の花として、神殿の資金源になればいいなと思ったのだが難しそうだ。
 しかし神殿の資金源には出来ずとも、私個人の手持ち資金確保の為には使えないだろうか。聖女原産としての負傷価値はつけられないので値段は雲泥の差となるだろうが、もし次が生えてくるとしたら髪みたいな物だ。つまり元手がなく手持ちの確保が可能となる優れものである。
 髪とは違い引っこ抜いたら出血するかもしれないことは難点だが、髪とは違い、栄養状態に左右されず品質を保てる可能性があり、そこは利点だ。もし繰り返し生えてくるのなら、適宜収穫していきたい所存である。
 これは妙案だとエーレに提案してみた。するとエーレはゆっくりと右手を持ち上げた。その手の行方をなんとなく視線で追う。
 エーレの手は、襟元を下げている私の胸元を通り過ぎ、私が掴む場所とは逆の首元の襟を掴んだ。
 そしてそのまま引っ張る。するとどうなるか。
 当然、締まる。
「ぐえ!」
「そうか。お前は神官長が率い、尚且つリシュタークである俺がいる神殿が、聖女を売らねば困窮すると思っているわけだな」
 やけに平坦な声で紡がれる言葉が終わると同時に、私の首をぎりぎり締めつけていた襟元から手が離される。助かったと思う間もなく、私を解放した手は、私の顔面を鷲掴みにしていた。
 とりあえず私は、顔面の面積が半分になる覚悟を決めた。
「はっ倒す」
「握り潰してますけどね!?」
 結果として私の顔面は三分の一くらいになったと思われるので、覚悟が足りなかったようだ。
 次からはもうちょっと覚悟の度合いを増やしておきたい所存である。

Book List

TOPへ